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新潟家庭裁判所 昭和52年(少)1624号 決定

少年 R・I(昭三五・一・二二生)

主文

少年を新潟保護観察所の保護観察に付する。押収してあるサンセメン(二八ミリリットル)空びん四本(昭和五二年押第一〇六号の二)、同ビニール袋一〇枚(同号の三)をいずれも没取する。

理由

(非行事実)

少年は、

一  昭和五二年一二月一一日午後六時三〇分ころ、新潟市○○××番地コーポ○○×号室において、麻酔等の作用を有するトルエンを含有する接着剤(サンセメン)をみだりに吸入した。

二  昭和五一年二月一九日保護観察に付されたものであるところ、昭和五二年一二月一一日上記一の非行を犯したために、観護措置をとられたうえ、昭和五三年一月五日審判のうえ試験観察に付された。ところが、同年二月中旬ころそれまで勤めていた、しかも上記試験観察の一つの条件である義父K・Tが経営する○○電気店での勤めを退職し、以後再四にわたり仕事を見つけては就職するものの長続きせず、一日又は数日間でいずれも退職するということの繰り返しで、その後は徒遊の生活を送つており、また、友人宅に親に無断で宿泊したり、夜遊びを継続している。以上は保護者の正当な監督に服しない性癖があり、かつ、正当な理由がなく、家庭に寄りつかない事由に該るものであつて、このまま放置すれば、その性格、環境に照らして、将来、罪を犯す虞れがある

ものである。

(法令の適用)

一につき、毒物及び劇物取締法二四条の四、三条の三、同法施行令三二条の二。

二につき、少年法三条一項三号イ、ロ。

(処遇の事由)

少年は、これまで保護観察、試験観察などに付され、関係機関及び保護者等から手厚い指導を受けているにもかかわらず、意思薄弱及び怠惰な性格から更生の効果があがらず、依然として要保護性の強い状態にある。

昭和五三年九月九日両親が協議離婚し、従前の不自然な関係に一応の終止符が打たれたのであるが、少年の親権者に実父が定められたこともあり、その頃から再び少年は実父とともに調理師の見習いなどをしながら各地を転々としていた。しかるところ、生活の本拠が定まらないことや実父の怠情な性格などもあり、就労したりしなかつたりの繰り返しで、少年も実父の許で腰を落ち着けるというものでもなく、実母の許に帰つたりという不安定な生活を続けざるをえなかつた。そうしてみると、現に監護能力もないと思われる実父を親権者にしておくのでは少年の保護育成に十全を期待できないのではないかとも考えられ、他方、今後少年の現実の監護に当たるのは実母及びその内縁の夫であり、(離婚後六か月経過後に婚姻する予定であるという)、できれば実母が少年の親権者となるのが好ましいのではないかと思われるのである。この点については今後検討の余地が残されているといえよう。

ところで少年の監護については実母も内縁の夫も再度最善を尽くす旨誓約していることでもあり、試験観察の結果が芳しいものではなかつたことは否めないものの、期間中、非行らしきものも惹起されていないこと、少年が今回(昭和五四年一月一一日)観護措置をとられたことにより従前の態度を悔改め、地道で規則正しい生活態度を身につける決意をしていること、その他諸事情を考慮すると、今直ちに施設収容の処分をしなければその健全な育成を期すことができないものとはいいがたい。

そこで、再度保護観察に付したうえで社会内処遇により少しずつその更生をはかることとしたい。

よつて、少年法二四条一項一号、少年審判規則三七条一項、没取につき、少年法二四条の二第一項二号、二項により主文とおり決定する。

(裁判官 後藤邦春)

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